今日の天気予報は晴れだった。
最近、人気が出てきた天気予報キャスターの子が
「今日はすっきりした天気になり、洗濯日和でしょう」
そう言ったのを信じて、朝洗濯物をお母さんと一緒に干したし、
いつも入れていた折りたたみ傘もいらないだろうと思って机の上に置いてきた。



けど天気予報は、あくまでも予報。
完璧ではないのだ。




「降ってきたー!!!!」




午前中は天気予報通り。晴れですっごくいい気持ちだった。
だけれど、午後から雲が多くなって帰る頃には真っ黒な雲しか空にはなかった。

さっさと帰ろう、と思って足を速めたけど結局降ってきた。
小雨なんかじゃない。もう大雨!ほんと最悪!




「お、やん」




急いで近くの屋根があるところで雨宿りをしていると、
傘を差しながら自転車に乗ったユウジが目の前でとまった。




「何やお前。傘忘れたん?」
「うん。今日天気予報では晴れって言ってたからさ」
「ふーん…」




てっきり、ここで後ろ乗る?なんて言ってくれるのを期待していたんだけど
彼はそのまま「じゃ!」とか言ってそこから立ち去ろうとしていた。
わたしは慌てて彼のカーディガンを引っ張って食い止めた。




「え!?なんや!?カーディガンのびるやんけ!」
「ユウジそこは『後ろ乗ってく?』でしょ!」
「なんでやねん。俺そこまで優しくないねん」
「ずぶ濡れの女の子を置いてくの?」
「せやかて、傘どないすんねん」



2人乗りしながら傘さしても、意味ないやろ。俺の傘小さいんやで。
と彼は言った。確かにユウジの黄色の傘は普通のと比べて小さい。
いや、そこは女の子優先で…と言ったら容赦なく彼のグーが頭に落ちてきた。




「まあ、ええわ。今度アイス奢れや」
「え〜…奢らないとだめなの〜?」
「じゃあ、は一生そこで雨宿りしてるんやな」
「ごめんって!奢る!奢るから!」




ユウジは自転車の荷台のところの水を手で拭いてから
わたしに「はよ、乗れや」と言ってきた。
わたしが乗ると、「傘邪魔やでお前がさせや」と言って黄色の傘を差し出してきた。

こういう、さり気ない優しさが彼のいいところである。





「ユウジ…ごめん」




あれから送ってもらって、家のドアを開けようとしたら鍵が閉まってた。
ああ、そういえばお母さんが遅くなるって言ってたっけ。
いつも鞄のミニポケットに入れてあるハズの鍵を探すけれど、なかった。
必死に探すけど、なくて。お母さんが帰ってくるまでお隣さんの家にいようと思った。


そう、そのお隣さんが一氏ユウジである。




「なんで、さっき別れたハズのがいんねん」
「いやあ、実は鍵をなくしまして」
「おばさんは」
「お母さん、今日帰ってくるの遅いんだよね!」
「…お前、死なすど」




とひどい言葉を言われたけど、彼は家に入れてくれた。
リビングのソファに座ると、ユウジがお茶を出してくれた。
なんか、懐かしいなあ。小学校のときはよくこの家に遊びにきて
このソファでユウジとはしゃいでたっけ。
あの頃は可愛かったのになあ、と思いながらユウジを見ると
「なんや」と睨まれた。(可愛くない!)




「っくしゅん!」




しばらく、テレビを見ていたらくしゃみが出た。
そういえば、ずぶ濡れのままなんだっけ。だんだん寒くなってきた。
シャワー浴びたいなあ、なんてぼそっと呟いたらユウジに聞こえたらしく
彼は驚いた顔でこっちを見てきた。




「いや、それは流石に自分の家で浴びろや?」
「えぇ〜、寒い」
「布団かぶればいいやん」
「服濡れて気持ち悪い…」
「お前わがままやな!!!」




それから必死にお願いしたら、彼はしょうがねぇという顔をして
自分の部屋から灰色のスウェットを持ってきた。




「ほんま、うぜぇ」




と言いながらわたしにスウェットをぽいっと投げてきた。
わーい!ユウくん優しい〜!とか言ってみると
「そう呼んでいいのは小春だけや!!!」と怒られた。


それからさっとシャワーを浴びて、スウェットを着た。
ふんわりと、柔軟剤のいい匂いとユウジの匂いがした。
(なんかわたし、変態みたいじゃないか!)

けど、そんなに自分と身長差ないくせに大きいスウェットなんか着ちゃって…。
上のスウェットだけでも太ももは隠れちゃうよ!ダボダボ!

それからズボンも履こうと思って手をのばすけどそこには何もなかった。
(え?もしかして上だけ!?)




「ちょっとユウジー!」




脱衣所から大声を出してユウジを呼ぶけれど、まったく聞こえてないみたい。
かなりの大音量でテレビ見てるな、ユウジ…!
しょうがない。わたしはそのまま脱衣所から出てユウジがいるリビングへと向かった。




「ユウジ〜、大音量でテレビ聞いてると耳悪くなるって」
「おー…」
「っていうかさ、スウェットのズボンないの?」
「せやなー…」
「聞いてる!?!!?」




思いっきり声を上げてユウジに言うと、耳を塞いで「うっさいねん!」と言われた。
そしてこっちを向いたユウジは目を見開いて固まってしまった。




「おっまえ、何て格好してんねんんんん!!」
「仕方ないじゃん!ズボンがないんだもん!」
「やったら、あっちから俺呼べや!!!」
「呼んだもん!けど、ユウジ来なかったらここに来たんでしょ!」
「うわあああ!お前こっち来るなや!そこから動いたら死なすど!」




ユウジのところへ近づこうとすると、真っ赤な顔でそう言われた。




「はあ?」
「お前、いくらなんでもその格好はアカンて!」
「いいじゃん!昔、一緒にお風呂入った仲じゃん」
「それは昔のことや!ほんまアカンてえええ!」
「ユウジはいいじゃん☆」
「何がええんや!?そんな格好男が欲情してまうやろ!」
「したとしても、ユウジはしないでしょ!ほら、幼馴染やし」
「その幼馴染で固定されんの俺嫌やねん!っていうか、俺かて男やし!」
「ちょっと、ユウジ、どうしたの!?」




「俺かてに欲情することあんねん!!!!!」




真っ赤な顔をしてユウジは言った。
思わず、「は?」と間抜けな声出してしまった。
そんなわたしを見てユウジは「あー…ほんっとお前死なすど!!!」とそこにあった
タオルケットをわたしにかぶせてリビングから出て行った。
ダンダンダンと階段を上がる音がしてバタン!ってドアを閉める音がして。
それからしばらくまたドアが開く音がして階段を下りる音がして。

タオルケットの上からスウェットがバサっと落ちてきた。



それから落ち着いたユウジと目が合った。




「はよ、着ぃや」




そう言われてから、さっき自分がユウジに何を言われたのか、
自分がどんだけ恥ずかしい格好をしてたのかが頭をよぎって
急に恥ずかしくなった。

顔を真っ赤にすると、ユウジから「いまさらか、アホ」と言われた。


 


 





こんなユウジ大好き!(笑)女の子がダボダボのスウェットを上だけ 着てるのっていいよねってこの前男友達に言われたので、これ書いてみました。 え、そうなの?(笑)(10.10.11)